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概要

ペプチドは創薬において重要な分子ですが、生体内での安定性が低い、生体膜透過性が不十分、などの欠点があります。そこで、生体内での代謝安定性や膜透過性の向上、新たな高次構造を有する分子の創出を目的として、ペプチドの構造を種々変更したペプチドミメティクスの開発が行われており、例えば、アミド結合の窒素原子に置換基を有するペプトイドや、β-アミノ酸で構成されるβ-ペプチドなどが知られています。また、さらに構造を大きく変化させたペプチド類縁体も合成されており、アミド結合をトリアゾールに置き換えたトリアゾラマーが開発されています。トリアゾラマーは、ペプチドと同様に置換基の組み合わせによって非常に多くの分子を網羅的に創出可能であり、生物活性を示す分子も見出されています。このように、新たな構造を有するペプチド類縁体を網羅的に合成することができれば、医薬品などの機能性分子の創出に貢献できると考えられます。

当研究室では、トリイソプロピルシリル基で保護したジインをリガンドに持つジイニルベンズヨードキソロン(TIPS-diyne-BX)の合成に成功し、スルホンアミドの銅触媒的ジイニル化反応と末端アルキン選択的アジド?アルキン付加環化反応を用いることで、複雑な構造の分子を置換基に持つイナミドの合成を達成しています(Chem. Commun., 2023, 59, 450-453)。

今回、アミノ酸から誘導したスルホンアミドのジイニル化により、アミノ酸由来TIPSジイナミドを合成し、イナミド部位選択的アジド?アルキン付加環化反応と、末端アルキン部位でのアジド?アルキン付加環化反応を行うことで、アミノビトリアゾールを骨格に持つトリペプチド類縁体の合成を行いました(図1)。

本合成法の実現のためには、一段階目のアミノ酸誘導体のジイニル化反応を確立する必要がありましたが、電子豊富なフェナントロリンリガンドを見出すことで高い収率で反応が進行しました。また、二段階目のイナミド部位選択的アジド?アルキン付加環化反応は、ルテニウムやロジウム触媒を用いることで良好な収率で進行しました。

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合成したアミノビトリアゾールは、3分子のアミノ酸がアミノ基の部分で結合していることから、アミノ基とカルボキシル基でアミド結合を構築して繋がっているペプチドとは構造が大きく異なっています。また、スルホンアミドとトリアゾール環の間にN-C軸不斉を有する興味深い立体構造を持っています。
今後、合成したトリペプチド類縁体の生物活性などの機能が明らかになれば、医薬品や農薬などの機能性分子の開発に寄与できると考えられます。

本研究は、JSPS科研費(Grant Number, 19K06977, 22K06530)、武田科学振興財団研究助成、小川科学技術財団研究助成、ヨウ素学会ヨウ素研究助成、COMIT創薬シーズ共同研究などの支援を受けて行われたものです。

本研究成果は、岐阜薬科大学合成薬品製造学研究室の加納天氏(薬学科(当時))、魚住龍成氏(薬学科)、多田教浩講師、伊藤彰近教授、岐阜大学丸山淑史氏らによる共同研究であり、アメリカ化学会誌「The Journal of Organic Chemistry」に公開されました。(https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.joc.4c00999)

本論文はThe Journal of Organic Chemistry誌のSupplementary coverに採用されました。清流長良川での鮎釣りをモチーフに、鳥獣戯画のウサギがアミノ酸誘導体に見立てた魚を3匹釣り上げているところが描かれています。

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本研究成果のポイント

  • ジイニル超原子化ヨウ素反応剤を用いる求電子的ジイニル化に最適なリガンドを見出した
  • 合成したトリペプチド類縁体は軸不斉と中心不斉を持つ
  • アミノ酸以外の分子にも適用可能

論文情報

  • 雑誌名:The Journal of Organic Chemistry
  • 論文名:Modular Synthesis of Tripeptide Analogs with an Aminobitriazole Skeleton Using Diynyl Benziodoxolone as a Trivalent Platform
  • 著者:Takashi Kano, Ryusei Uozumi, Toshifumi Maruyama, Norihiro Tada,* and Akichika Itoh*
  • 巻号:89巻、16号
  • ページ:11761-11765
  • DOI番号:10.1021/acs.joc.4c00999

研究室HP

https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/gousei/